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神代の物語 Archive

第二七回 「神代の物語~その1~」・・(平成20年5月1日)

 神代の物語は、日本人の死生観を考える上で大変に重要です。そこで有名な神話ですが、改めてその大まかな内容を書き出して見ます。  はじめに天の中心と、万物を生み出す二柱の神があらわれます。天地は混沌として土地は固まらず、ぶよぶよした水に浮かぶ脂のように漂っていました。するとそこに、葦の芽が芽吹くような勢いの神があらわれます。さらに天地を安定させる二柱の神、雲の神、泥と砂の二柱の神、男女に分かれた神、男女の性器をあらわす神、人の顔を表す神、不思議な調和の力の神が次々とあらわれ、最後にイザナギとイザナギがあらわれます。こうして神々の国、高天原が誕生しました。

 高天原の神々は、イザナギとイザナミに「この国をしっかりと固めてつくれ」といって、天の沼矛を与えます。二神は天の浮橋から天の沼矛を下ろし、かき回して引き上げると、矛の先から滴り落ちた塩が固まり、オノゴロ島ができました。二神はその島へ下り、天の御柱を建て、八尋の宮殿を造りました。イザナギはイザナミに「あなたの体はどんな具合になっている?」とたずねます。イザナミは「うまくできているけど、まだふさがっていないところが一ヶ所あります。」と答えます。イザナギも「私の体もうまくできてはいるが、できすぎたところが一ヶ所ある。私のできすぎたところをあなたのふさがっていないところへ挿し込んで国生みをしよう。いかがです?」と。こうして二神は天の御柱を回り、出会ったところで交わいます。ところがはじめの二回はうまくいきませんでした。最初に生まれたのは「水蛭子」という背骨のない不具の子だったため、葦の船に乗せて流してしまいました。次に生まれた子も淡のような島でした。二神が高天原に尋ねてみたところ、「女性が先に声を掛けたのがいけなかった」とのこと。二神は言われたとおりにもう一度やり直します。こうして生まれたのが淡路島です。つづいて四つ顔のある四国、三つ子の隠岐島、四つ顔の九州、壱岐島、対馬、佐渡島、大倭豊秋津島(本州)と、次々に八つの島を生みました。このためこの国を「大八島(おおやしま)」といいます。その後も吉備の児島、大島、姫島、五島列島など六つの島を生み、国生みが完了しました。

 国生みの次に、二神は色々なものの神を生み出します。不明なものも多いのですが、岩、土、部屋、屋根葺き、家、壁など住居に関する神々を生み、次に海の神、海と川の港、波と水面の神々や、風、雨、泉、木、山、のなどの神々を生み、天鳥船のかみ、そして食物と火の神を産みました。ところが火の神を生んだイザナミは女陰を焼かれて床に伏せってしまいます。吐き出したものから金属の神が生まれ、屎からは粘土の神、尿からは水の神、そして最後に食べ物の神が生まれます。しかしここでイザナミの命は尽きてしまいます。

 イザナギは愛する妻の死を嘆き、イザナミの枕元に腹ばって泣き伏したところ、涙から泣きの女神が生まれます。イザナギはイザナミの亡骸を出雲と伯耆の国境、比婆山に埋葬します。そして腰の長剣を抜いて火の神の首を刎ねました。その時、剣先の血が神聖な岩に飛び散り、石を切り裂く鋭い剣の神と根を切り裂く鋭い剣の神、石筒の神があらわれ、剣の根元の血からは溶鉱の甕と樋の神、雷の火花の神など、製鉄に関する神々があらわれ、殺された火の神の頭・胸・腹・陰・両手・両足からは山・森の神々が現れました。

 イザナギは妻に会いたくなり、イザナミの後を追って地下の黄泉の国に向かいます。イザナミは入口で迎えてくれました。「いとしい妻よ、あなたとつくった国は未完成のままだ、さあ帰ろう。」とイザナギは言いますが、イザナミは黄泉の国の食べ物を口にしてしまったので戻れないといいます。しかし「私もなんとか戻りたいので黄泉の国の神を相談してみます。その間は決して私を見ないでください。」と言って宮殿の中に戻っていきました。しかしいくら待ってもイザナミは戻ってきませんでした。待ちきれなくなったイザナギは、結い上げた左の髪から神聖な櫛の端を一本折り、火を灯して中に入ってみます。すると、そこにはイザナミの恐ろしい姿がありました。イザナミの骸には蛆虫がたかり、頭・胸・腹・陰・両手・両足には大小八つの雷が住み着いていました。イザナギは恐ろしくなって逃げ出します。イザナミは「私に恥をかかせた!」と怒り狂って、黄泉の魔女たちに後を追わせます。イザナギは様々な手を使って逃れましたが、今度は八つの雷神率いる黄泉の軍団千五百が追いかけてきました。イザナギはこれもなんとか交わします。すると、とうとうイザナミ自身が追いかけてきました。イザナギは、千人でやっと引き動かすことのできる「千引石」を黄泉津比良坂まで引き、入口をふさぎました。そしてイザナギとイザナミは、その石を挟んで向かい合い、互いに最後の別れを告げます。

 イザナミ「愛する夫よ、私はあなたの国の人を一日に千人、首を絞めて殺します。」 イザナギ「愛する妻よ、ならば私は一日に千五百の産屋を建てるまでだ。」

 こうしてイザナミは、あの世の大王・冥界の大王という意味の「黄泉津大神」と呼ばれるようになり、黄泉の坂を塞いだ石を「道反の大神」あるいは「塞ります黄泉戸大神」と言うようになりました。黄泉津比良坂は出雲国伊賦夜坂と言いますが不明です。

 黄泉の国から戻ったイザナギは、筑紫日向の阿波岐原に向かい、禊と祓いをしました。その時に身に着けていたものを脱ぎ捨てるたび、衣服から神々が生まれました。また、瀬に潜って体を濯いだ時、穢繁国(黄泉の国)で触れた汚垢から、禍々しく汚れた二つの神ができました。そこで、その禍々しさを直す「神直毘神」「大直毘神」ができました。さらに水底に潜って身を清めた時に、海の神・航海の神たちができましたが、海の神々は安曇連が先祖神として崇拝し、航海の神々は墨の江(大阪住之江住吉神社)の三神です。それからイザナギが左の目を洗った時に天照大神が、右の目を洗った時に月読命が、鼻を洗った時にスサノヲの命が現れました。

 イザナギは、天照大神・月読命・スサノヲの命の誕生を大いに喜びました。そして、天照大神に首飾りの玉を与えて高天原を治めさせ、月読命には夜の世界を、スサノヲの命には海の世界を治めるよう命じました。みな、イザナミの言いつけ通りに治めたのですが、スサノヲだけがこれに背き泣き叫んでばかりでした。このために悪神があたりに満ち溢れ、災いが起こりました。イザナギが問い詰めると、スサノヲは亡くなったイザナミの国に行きたくて泣いていると答えます。イザナギはこの返答に激怒し、スサノヲを追放してしまいます。

 長くなりましたので、解説は次回に譲りますが、神代の神話はおおよそこのようなお話です。

 

 

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