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2016-11

倭健命の遠征④

倭健は酒折宮から信濃を越え
尾張の美夜受比売(ミヤズヒメ)のもとに帰ってきた
約束を果たして結婚をして
そのあと、伊吹山の神を倒すために出かけて行った
その際に伊吹山の神を素手で倒してみせると意気込んで
草薙剣(きさなぎのつるぎ)を美夜受比売のもとに置いていった

伊吹山の神は巨大な白い猪の姿となって現れた
倭健は伊吹山の神を山の神の下僕だと言って侮辱したため
神を怒って激しい雹を降らせた

倭健は意識がもうろうとなり
玉倉部の清水にたどり着いて、なんとか正気を取り戻した

倭比売が授けた草薙剣は
伊勢神宮の加護の証で
剣を手放したことによって倭健の運命は暗転してしまったのである
様々な戦いによって挙げた功績の数々も
伊勢神宮の神威が後ろ盾になっていたからだったのだ

倭健の肉体は衰えていった
歩くのも困難だったが
体に鞭を打って
故郷の大和への道をたどった

鈴鹿を越えれば大和に着くという能煩野(のぼの)まできて
倭健は自分の死期を感じていた
そして故郷を忍んで歌を詠んだ

「倭は国のまぼろば たたなづく青垣 山隠れる倭しうるわし」
(大和国は国の中でももっとも秀でている。山々が青垣のように囲み、なんと美しいことか)

そして懐かしい我が家のほうから雲が沸き起こってくると
うたい命尽きた

勇猛であった倭健は父から避けられて
生涯、戦いに明け暮れるしかなかった
倭健はそんな悲しい英雄だった

悲報を聞き大和から遺族がかけつけ
陵をつくって嘆き悲しんでいたが
倭健の魂は白い鳥になって陵から飛び立っていった

白鳥は河内の志幾(しき)に飛来したため
その地にも陵をつくったが
白鳥はまた飛び立っていった

倭健の物語は
各地を平定していった多数の戦士たちの活躍と苦悩を
ひとりに集約したのではないかとも言われている

表舞台に立つことはないが
国の建国の時期に活躍した戦士の魂を鎮めるための物語なのかもしれない

倭建命の遠征③

大和に戻った倭建は早速父に報告したが
父から称賛の言葉をもらうことはできなかった

父は東国の平定を厳命した

倭建は席の暖まる暇もなく
都をあとにすることになった

下向する途中で伊勢に寄って
叔母の倭比売命と対面した
そこで倭建は叔母に弱音を吐いた
「西を平穏にして帰ってきたのに兵士も与えず
ただちに東へむかえと言う
父は私が死ねばいいと思っているようだ」と

倭比売命は草薙剣(クサナギノツルギ)を授けた
須佐之男命が八俣の大蛇の体内から取り出した聖剣である
もしものことがあればこれを開けよと
ひとつの袋も一緒に渡した

それらを持って尾張国の美夜受比売(ミヤズヒメ)を訪ね
結婚の約束をしたあと
抵抗する神々や王権に従わない氏族を次々に打ち負かして
倭建は東海道地域を東に進んでいった

静岡の焼津まで来たとき
地元の豪族にだまされて
野原で火攻めにあった

炎に包まれながら
倭建は叔母の言葉を思い出し
もらった袋を開いた

袋の中には火打石が入っていた

火打石を使って向火を点けると
迫る火の勢いは弱まった

窮地を出しった倭建は
豪族たちを斬り殺して焼いた

房総半島へ向かうために走水海(浦賀水道)を船で渡っていると
海峡の神が嵐を起こした
妃の弟橘比売(オトタチバナヒメ)は神の怒りを鎮めようと
荒れ狂う海に身を投げてしまった

海は急に穏やかになり船を進めることができるようになった

7日後に弟橘比売の櫛が海岸に流れ着いた
倭建は悲しみの中で弟橘比売の墓を作り
その櫛を納めた

北方を平安にして
足柄峠まで戻り
そこから山梨に入って酒祈宮に到着した

戦いに明け暮れる日々を思い
常陸(茨城県)から何夜経ったかと倭建がうたうと
酒祈宮の灯火番の老人が9夜だと歌で返した

その機転と風雅さをたたえ
老人を地方長官に任命した

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