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行方不明者の墓~一家族の決断~【3】

弟が失踪してから10年ほどは

陰膳を用意していた

弟の席に食事を用意して

家族みんなで食事をする

 

「陰膳」という存在を始めて知った

食事の時、弟が座るであろう場所を歩くと

ひどく怒られた

 

最初は、弟の食事は捨てられていたが

家族が食べてもいいらしいという情報を聞いてからは、母が弟の陰膳を食べるのが我が家の食事のスタイルとなった

「いただきます!」のあと

父と私と妹が食事をする、一拍おいて(弟が食べた後)母が食事をスタートさせる

 

私は、たまに弟の夢を見るようになった

夢を見てカレンダーを見ると、弟の誕生日であることがほとんどである

 

行方不明者の夢を見る時

年を重ねていることが確認できると、その人は生きている

行方不明の時のままで夢に出てくると、その人は死んでいる

と、いう迷信の存在を知ったので

母に弟の夢を報告する際には

「大きくなってたよ」と伝える

「じゃあ、生きているんだね」と母も喜ぶ

夢の中の弟が大きくなっていたのかどうかわからない

ただ、母が喜ぶのでウソをついた

 

陰膳や、夢の迷信など

行方不明者が家族にいなければ知らなかったことばかり

恐らく、戦争不明者の家族などが

希望を捨てないために、考え出した習慣なのだろう

 

行方不明とは、残酷である

ある意味、「死」よりも家族を憔悴させる

死んでいるのではないか?という恐怖と

生きているのではないか?という希望の狭間で

長い時間と心が支配される

 

「死」というものは

長い時間をかけて、受け止められていくものだ

しかし、行方不明というものは

気持ちの落としどころ見つけられず

長い時間を過ごしていく…

 

戸籍上、弟は生存しているのだ!

しかし、姿は見えない

じゃあ、いつを区切りに除籍をすればいいのか?

 

人の平均余命で割り出すのか?

認定死亡の届出が可能なのは

失踪から7年と定義されている

 

失踪から20年

新しい方向を考えるため

私たち家族は、現実を直視しはじめた

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