Home > お墓革命の時代 | コラム > 第四回 「お墓革命の時代 その3」・・(平成18年6月1日)

第四回 「お墓革命の時代 その3」・・(平成18年6月1日)

お墓は文化の反映です。お墓の形態の違いは埋葬方法の違いです。埋葬方法が違うということは、死後の世界をどう捉えるか?の違いです。

 日本の場合、古くから火葬が一般的ですが、これは、とても大雑把な言い方をすれば、「肉体は現世を生きるための容れ物であって、死を迎えると、霊魂は肉体を離れて存在する」という考え方の表現であるということができます。仏教的に表現すれば、それは「輪廻転生」という言葉で表現することができ、神道的に表現すれば、「人は死後、『神』として存在し続けている」という死生観の表現です。こうした考え方が、そして死者の霊魂をどのように扱うかが、伝統的なお墓のスタイルの確立に結びついているのです。

 日本は火葬の割合が非常に高い国です。ほぼ100%の死者が、火葬された上で埋葬されています。これに対して、イスラム教圏やカトリック圏では、復活信仰の影響もあって、日本とは逆に土葬の割合が非常に高くなっています。「死者の肉体に、再び霊魂が宿る」という考え方とも表現でき、こうした考え方に依れば、死者の肉体は保存されている必要があります。例えば、アメリカでは、遺体を防腐処理(エンバーミング)して、コンクリートで棺にカバーをして土葬するそうです。
 プロテスタント圏は、伝染病対策など衛生面での配慮から、火葬率が比較的高いのですが、それでも7割程度にとどまっており、日本に較べれば土葬の習慣が色濃く残っています。

 ところが、キリスト教圏において、ある重要な変化がありました。1963年にローマ法王庁が、火葬しても復活に支障はないと、火葬を許可する宣言をおこなったことです。この宣言以後、徐々にではありますが、火葬の割合が高まってきました。例えば、カトリック圏国家のフランスでは、それまで2~3%程度に過ぎなかった火葬率が、2000年には18%程にまで上昇しています。
 葬送の手段が変化することに伴って、お墓のスタイルも変化することになりますので、火葬率の上昇は、新しいスタイルの墓地の誕生に繋がりました。復活信仰に基づいた土葬の場合、少なくとも復活の時を迎えるまで、遺体の眠る場所は確保されていなくてはならないわけで、日本風に言えば、永代供養が原則となるのですが、火葬された場合、極論すれば、遺体を安置する場所が、復活の時まで確保されている必要性はなくなります。例えば、フランスでは墓地の使用条件が、30年前後の有期限貸付に移行しつつあり、永代使用権のある墓地でも継承者不明の場合は墓石を取り壊して、再貸し付けするシステムがあります。また、スペースにとらわれることがないので、スキャンタリング(散骨)形式の墓地も増加しました。ただ、散骨も決して一般的な埋葬方法というわけではないようで、ニュージーランドの場合、火葬が普及しはじめた当時(1970年代)は、ほとんどが散骨されていたのが、次第に焼骨を墓地に多様な形態で埋蔵するように変化してきたと言います。またアメリカでも、散骨法があるのは7つの州(1994年)にとどまっています。

 また、お墓の変化は社会変化を反映しています。
 先進国では、日本と同様に戦後のベビーブームを経て、多少の異同はあるものの、少子高齢化の時代を迎えています。このことは、前号まで述べてきたような日本におけるお墓に対する意識の変化が、他の先進国でも起きているであろうことを意味します。
 ヨーロッパでは、ペストなどの伝染病の流行といった歴史を経た経験から衛生的な視点で、そして産業革命に伴う都市人口の急増に依る墓地のスペースの不足なども、ローマ法王庁の宣言や少子高齢化と併せて、火葬を普及させた要因であると見ることもできるでしょう。
 ブッシュ政権の政策の分析によって、改めて伝統的な社会の影響力の大きさが再認識されたアメリカでも、比較的「進歩的」と表現できる西海岸では、火葬率も高く、様々な埋葬のスタイルが生まれています。また、シアトル・ロスアンゼルス・フロリダといったセカンドライフのパラダイスといわれる地域でも、死後、故郷へ搬送される遺体の費用軽減のために、火葬が普及していると言います。そして、社会福祉政策の一環として墓地を国家で管理する場合の多いヨーロッパと違い、民間管理が主体のアメリカでは、今後も新たなスタイルのお墓が生まれる素地は充分にあると考えられます。
 近隣諸国に目を移すと、近年急速な経済成長を続ける中国では、都市人口の集中に伴って墓地が不足し、都市部ほど火葬率が高くなっており、上海では政策として散骨を奨励しています。韓国でも2000年に墓地法が変わり、火葬が一気に普及しました。これに伴って新たなビジネスチャンスが生まれ、まさに大変化の時代を迎えているとのこと。

 情報革命の時代を迎えたと言われて久しい今日、世界各地で進行するお墓に対する考え方が、様々な形で交流していくことになるでしょう。現に日本にも、散骨や公園墓地といった欧米で生まれたスタイルが輸入されていますし、「火葬先進国」とも言える日本のスタイルが、世界のどこかで受け入れられているかも知れません。
 今後どのようなスタイルのお墓が生まれていくのか、業者としてだけではなく、いずれお墓にはいることになる、個人としても興味のあるところです。

Home > お墓革命の時代 | コラム > 第四回 「お墓革命の時代 その3」・・(平成18年6月1日)

 

このページのTOPに戻る