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沙本毘売の悲劇①

第11代の垂仁天皇の皇后である沙本毘売命
その沙本毘売命のもとに同母兄である沙本毘古王が訪ねてきて
天皇と自分とでは、どちらを愛しているか?
と突然訊ねてきた

とっさのことだったので
沙本毘売命は兄の方が愛おしいと答えてしまう

沙本毘売命と沙本毘古王は開化天皇の孫にあたり
垂仁天皇の従兄弟にあたる

古代では異母兄弟どうしの結婚は認められていたが
同母兄弟どうしはタブーとされていた

沙本毘古王は天皇を殺して妹の沙本毘売命を奪い
天皇の座につこうと考えていた
そして沙本毘売命に小刀を渡して
垂仁天皇の殺害を命じた

沙本毘売命は自分の膝枕で眠る垂仁天皇に3度小刀を振り上げるが
失敗に終わってしまう
兄である沙本毘古王と夫である垂仁天皇の間で板挟みとなり
涙が頬を伝って夫の顔に滴り落ちた
その涙で目を覚ました垂仁天皇に、沙本毘売命は兄の陰謀を伝えてしまう

それを聞いた垂仁天皇は、謀反を潰そうと軍勢を送った
沙本毘古王は城に籠って軍勢を待ち受けた
沙本毘売命は兄を心配して、その城に駆け込んだ

沙本毘売命はその時、垂仁天皇の子を身ごもっていたのだった

沙本毘売命を深く愛する垂仁天皇は
城を囲ったまま攻められずにいた
そのうち、子どもが生まれ
沙本毘売命は、その子を城の外に出して
立派に育ててほしいと垂仁天皇に託した
沙本毘売命は兄と死ぬ覚悟だったのである

沙本毘売命への思いを絶つことができない垂仁天皇は
必死に説得を行ったが
沙本毘売命の気持ちは変わらなかった

沙本毘売命は自分の代わりに従姉妹たちを妃に迎えるように伝え
兄に従って城の中で命を絶った

悲しみに暮れる垂仁天皇は沙本毘売命が生んだ子を
大切に育てることを決意し
炎の中で生まれた、その子を本牟智和気(ホムチワケ)と名付けた

沙本毘売命は垂仁天皇を愛しながらも
情熱をぶつけてくる兄の心情に寄り添い命を絶った

そして垂仁天皇も、そんな沙本毘売命を許し
優しく慈しみ
二人の間の子を大切に育てようと決意する

二人の繊細な心情を綴った切ない物語である

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